ガラスアンテナで「窓の基地局化」、ドコモ・AGC~5Gへの応用も

NTTドコモとAGCは、窓ガラスに貼り付ける携帯基地局用アンテナを共同開発しました。アンテナ機能を持ちながら、透明で景観を損ねない見た目が特徴。ビルが建ち並ぶ都市部の携帯エリアで活用します。

 

このガラスアンテナは、ビルの谷間の携帯電話が届きにくい場所のエリア化を狙ったもの。スモールセル(屋外用小型基地局)のアンテナとしての機能を持ち、建物内の壁の内側に設置することで、建物外の空間をエリア化します。

「基地局は見た目が悪い」設置場所に悩む携帯事業者

 

急速な技術の進化が続いているモバイル通信。スマートフォンの登場以来、通信量も年々増加する傾向にあります。NTTドコモでは、毎年2~3割のペースで通信量が増加しているといいます。

 

特に通信が混雑すると、スマホの読み込みが遅くなったり、繋がらなくなったりといった悪影響が出やすくなります。

 

また、高層ビルが建ち並ぶ都市部では、携帯電話の電波が建物に遮られるため、大きい基地局で広いエリアをカバーするのは難しいとされています。

 

こうした問題を解決するため、携帯各社は小さい範囲(半径100~200m)をカバーするスモールセルを大量に設置して、1つ1つの基地局かかる負荷を分散させています。

 

基地局を設置するためには当然、ビルの所有者の許可が必要になります。ドコモ 無線アクセスネットワーク部の勝山幸人課長は、「これまでの基地局では『見た目が悪い』という理由で設置の許可が下りず、計画通りに基地局を設置できないことがある。現在は設置許可を得たビルの基地局でなんとかしのいでいる状況」と課題を説明します。

 

_

 

透明な金属をガラスで挟み込む

 

今回開発されたガラスアンテナは、透明な金属の一種を配線し、両面をガラスで挟み込んだもの。電源と通信回線を接続し、ビル内に置いた基地局制御装置とつないで利用します。

 

スモールセルのアンテナとして十分な性能を確保した上で、ビルの景観を損ねない"目立ちにくさ"も兼ね備えました。

このガラスアンテナは、ビルの屋内に設置できるようにしたこともポイント。工事やメンテナンスの際を簡単に行えます。

 

ドコモで無線アクセスネットワーク部長を務める小林宏氏が「ドコモ単独ではこの製品はできなかった」と語るように、ガラスアンテナでは、ガラスと携帯電話アンテナの両方を持つAGCのノウハウが開発に生かされています。

たとえば、アンテナの電波が窓ガラスで拡散されてしまう課題は、窓ガラスの素材にあわせて調整を加えることで抑制。また、窓ガラスの上からガラス素材を貼り付けると、外気温の変化によって割れやすくなる「熱割れ」という現象には、シミュレーションを用いて割れるリスクを低減することで対処しているといいます。

 

ガラスアンテナは、3.5GHz帯のTDD-LTE(Band42)に対応。4×4 MIMOや256CAMといったLTEの高速化技術もサポートし、理論値で最大588Mbpsの通信が可能です。ドコモの小林部長によると、商用製品の投入は2019年の春頃になる見込みです。

5Gへの応用や外販も

 

ドコモは、ガラスアンテナの技術は、次世代のモバイル通信「5G」への応用も可能としています。5Gでは11月7日時点で周波数の割り当てが行われていないことから、開発は今後進めていくとしていますが、「(現在4G LTEで展開しているような)低い周波数帯なら応用できるとみている」といいます。

 

ドコモとAGCは5Gに向けた実証実験として、7月に「車両ガラス設置型アンテナ」の試験を行っています。受信側のアンテナを自動車に窓ガラスに組み込んだもので、自動運転車での活用を見込んでいます。

▲NTTドコモの小林無線ネットワーク部長(左)とAGC ビルディング・産業カンパニーの武田雅宏アジア事業本部長

また、今回のガラスアンテナは、NTTドコモとAGCが共同開発した製品ですが、AGCは「NTTドコモ以外への販売も考えていきたい」(AGC ビルディング・産業カンパニー アジア事業本部長の武田雅宏氏)としています。提供条件などはドコモ側と検討する段階としていますが、ドコモの小林部長は「量産が進めばスケールメリットがでて、ドコモとしてもより低価格で購入できるようになる」と話しています。ガラスアンテナの特許はドコモとAGCの共同出願となっていることから、交渉次第では他社へガラスアンテナが売れるとドコモにライセンス収入が入るといった形もあり得そうです。

 

今回のガラスアンテナの他にも、ドコモは「マンホール型基地局」を開発し、実証実験を進めています。通信量が格段に増える5Gの時代に入れば、景観に配慮しながら、あの手この手と基地局を建てていく競争が進んでいくのかもしれません。