「正気じゃない」曲面ディスプレイ、執念が生んだ AQUOS zeroの機能美──シャープに聞く

"重厚長大化"が進むスマートフォン市場に、「軽さ」という新しい競争軸を持ち込んだシャープの「AQUOS zero」。「6インチ台で世界最薄・最軽量」を謳うこのスマホの開発裏話を、シャープの開発担当者にじっくりと聞きました。前編・中編・後編(本記事)の3本でお届けします。

お話を伺ったのは、小林繁氏(パーソナル通信事業部長)、篠宮大樹氏(パーソナル通信事業部 商品企画部主任)、前田健次氏(パーソナル通信事業部 システム開発部長)の3名です。

 

「正気じゃない」と言われた曲面ディスプレイ

6.2インチで146gという軽量さが持ち味の「AQUOS zero」ですが、本体形状へのこだわりも並大抵ではない、と小林氏は語ります。AQUOS zeroでは、前面・背面ともアークデザインを採用。底部から見上げると、緩やかな曲線を背中合わせに貼り付けた"どら焼き"のような形状になっています。

実はこの、ディスプレイ面全体をカーブさせる形状には、高度な技術が投入されています。他社のアークデザインは中央部は平らになっているものがほとんどで、中央部まで弓なりになっているものは類例が少ないといいます。

前田氏は開発時を振り返り「AQUOS zeroのアークデザインをデバイス設計の担当者に説明したときは『正気ではない』という反応が返ってきた」と語っています。

有機ELディスプレイ自体は曲げることができる素材ですが、制御用のICユニットの基盤を曲げたら割れてしまうため、通常は平らにする必要があります。AQUOS zeroではディスプレイ開発部門と連携を取ることで、この問題を乗り越えています。

また、アークデザインは、タッチパネルの反応が画面端に行くほど悪くなる傾向があります。これもディスプレイの開発時から調整することで、画面端のレスポンスも改善しています。この改善は「特に音楽ゲームをプレイされる方から反響が多かった」(小林氏)といいます。

熱処理にも独自の工夫

 

AQUOS R以降、シャープのハイエンドスマートフォンでは、放熱設計に力を入れています。その理由は「チップセットを効率的に放熱しないと、安全のためパフォーマンス制御がかかるから」(小林氏)。

設計上の工夫では、熱を持ちやすい部品の配置を分散させた上で、端末内部に放熱シートやあえて空洞部を作り、熱を分散させる構造が取り入れられています。また、従来チップセットの周辺にあった熱センサーを端末の表面近くに配置したことで「正確に把握することで、ギリギリまで性能を落とさないような制御」(篠宮氏)を実現しています。

そして、ゲームユーザーを意識した「AQUOS zero」では、熱設計がさらに改良されています。その1つがバックパネルにアラミド素材を採用したこと。軽量化だけでなく「ガラスよりも熱伝導率がおよそ2割低い」(小林氏)という副次的な効果も大きいといいます。

さらに、ヘビーユーザーの使い方に対応するために追加されたのが「パラレル充電」という設計上の工夫。充電用のICチップを2つ並列で搭載することで、充電しながら利用しているときに、熱がこもらないとする工夫です。充電IC同士の配置も分散させることで、放熱効果の徹底を図っています。

放熱効率を向上させると、熱を逃がした部分は当然熱くなります。その熱をユーザーに感じさせない工夫が、側面フレームにあります。側面フレームはマグネシウム合金製で、熱伝導率が高く排熱には効果的ですが、直接触ると熱さを感じやすい部分でもあります。、この課題には、側面に凹みをつけた筐体デザインで対処。効率的に排熱しつつ、熱い部分には直接触れないような設計で解決しています。